
これがボクの家づくりの原点となっています。
いや、気が付くとそうなっていました。
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自営業だった父親の仕事場が自宅にあり、そこはコンクリートの土間空間でした。
男3人兄弟が成人し、自営業も辞めて、暫くは犬の居場所だったその空間に、
ある時、父が買ってきて取り付けたのが、この安価な薪ストーブでした。
最初はなぜこんな面倒なストーブを買ったのか、理解できませんでしたが、
楽しそうに薪をくべ、何するわけでもなくゆったりとストーブの前でくつろぐ父。
そんな姿を見ているうちに次第にその隣に座るようになり、いつの間にか2人の
兄も集まりだし、めっきり減った男同士の会話が自然と生まれるようになりました。
それからというもの、ボクはその土間空間でキャンプ用品のメンテナンスや
スキーにワックスをかけたり、兄たちは趣味の工作をしたり。
そして週末はみんな集まってストーブで鍋をつくったり焼肉をしたりしてワイワイと
家族が仲良く過ごすようになりました。
ボク個人の変化としては、アウトドアが趣味だったので、休みの日が雨で予定が
中止になるとストレスになっていたのが、雨の日は土間でアウトドアグッズの
メンテナンスをしながら、次の予定に想いを馳せることで、雨の日でも楽しく
過ごせるようになりました。
また、何となくぎこちなくなっていった兄たちと自然に話が出来るようになり、
小さい頃のように無邪気に話が出来るようになりました。
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我が家にとって、数千円の薪ストーブで得られた効果は計り知れないもので、
男兄弟にありがちな冷めた関係が、週末は集まってお酒を酌み交わしたり、
キャンプに一緒に出掛けるようになりました。
それから数年後、父は他界しましたが、今思えば兄弟がそれぞれ家庭を持っても
再び仲良くしてほしい、という父の想いがあってのことだったのかもしれません。
求心力のある場、というのは何もきらびやかだったり豪華絢爛だったりする必要は
なく、何よりその家族にまつわるストーリーに関連していることが大事なのだと、
父から教わったような気がします。
我が家は皆アウトドアが好きで、子供が大きくなって自らが連れて行く必要が
なくなった父、それぞれが独立してそれぞれの家族の時間が大事になった兄弟。
なんとなく疎遠になりつつある家族に、「火を焚く」という共通言語が再び
家族を繋ぎ合わせるきっかけとなりました。
注文住宅とは、その手間が大変で、業者だけでなくお客様も面倒と思いがちな
方も多くいらっしゃいます。
建売や建築条件付といった物件がメインで売れているのもこのためだと思います。
ボクが住宅のプランを考える際、お客様との雑談を大事にしているのは、部屋が
いくつ欲しいとか、リビングは広くしてほしいとか、そういった具体的な要望
には現れない、ご家族のストーリーを重視しているからです。
お客様にとっては家づくりには重要ではないのではないか、と感じられるような
些細な一言に、実はプランニングのヒントが隠されていたりします。
子供のために個室を確保しなくては、とか、来客がうらやむような見栄えにしたい
といった気持ちも所有欲を満たすうえでは大事かもしれませんが、ボクが何より大事に
していることは、お客様との雑談から垣間見えるご家族のストーリーを汲み取る事。
そして、同じような想いを持たれた方との出会いを大事にし、ご家族のストーリーを
反映したプランをつくること。住宅建築とはこれに尽きると考えています。
少し面倒かもしれませんが、家を建てようと思ったきっかけ、趣味や趣向が、なぜ
それが好きなのか。そんな事をお話しながら掘り下げていくと、個室の数やリビング
の大きさ、見栄や見栄えよりも大事な要素が見つかるかもしれません。
# by atelier-sgt | 2018-11-30 13:48